2025年3月2日
2025年2月20日(木)に,本研究会会員の玉木俊明氏が主催するGlobal History Lecture Seriesにおいて,アムステルダム自由大学のLouis Sicking氏による講演が行われた(報告タイトルはMicrocosm of the Hanse: Space, representation and conflict management at Scania, 1350-1550)。
中世最大のニシン漁場・市場であるスコーネにおける,フィッテと呼ばれるハンザ商人居留地の組織と制度を論じたもので,氏はこの居留地を「ハンザのミクロコスモス」として捉える。まずフィッテの空間的構成が紹介され,それに続いて居留商人の組織,商人たちの母都市およびその代表者との関係,さらに紛争解決の仕組みなどが検討された。とりわけ特徴的であったのが,地中海地域におけるフォンダゴとの類似性,さらには近世の広東や出島などにおける居留地との質的な継続性を指摘するという,オランダの研究者ならではとも言える大胆なグローバルヒストリー的視野である。この見方については当然異論があり得,本稿筆者もあえてやや批判的な質問・コメントを行った。中世ハンザという歴史的固有性の検出を重視する立場をとり,氏の議論に対置させようとしたのである。
しかしそれは,氏の構想を排除しようと意図したものではない。むしろ,氏のように思い切った見取り図の提示に対し,地域・時代ごとの専門研究者から批判や検証が続くことで,居留地という商業組織の歴史的理解が,通時的かつグローバルな文脈から可能になるかもしれない,と考えている。氏の報告対象は限定的なものであったが,そうした広がりを感じさせた。研究書の出版が予定されているそうであり,刊行を心待ちにしたい。