2008-05-24

「バルト海の歴史についての日独ワークショップ」参加記

谷澤毅(長崎県立大学)

去る5月1日から2日にかけて、北ドイツのハンザ都市グライフスヴァルトでバルト海の歴史をテーマとしたワークショップ(Japanese-German Workshop on Baltic History)が開催されました。わが国からは、日本ハンザ史研究会の会員4名を含む6名が参加し、ドイツ側の6名の参加者とともに、合計12名の新進・若手の研究者が研究報告を行ない、オブザーバーも含めて討議を重ねました。

ワークショップの模様/撮影:中田恵理子(京都大学大学院)

このワークショップが開催されるようになったきっかけは、主催者であるグライフスヴァルト大学教授ミハエル・ノルト博士の昨年2007年秋の日本における研究旅行にありました。ハンザ・北欧経済史研究の第一人者として名高いノルト氏は、日本で開催されるワークショップでの研究報告と議論を要請されて来日しましたが、その際、招聘者である玉木俊明氏(京都産業大学)をはじめとするわが国の研究者との交流を通じて、日本でハンザ史研究が大変盛んであることを知るにいたりました。そこでノルト氏からドイツでのワークショップ開催の提案がなされ、氏の日本旅行に同行した玉木氏が日本側のコーディネーターとなって調整が進められていき、このたびの開催へと漕ぎつけたのでした。

日本側から今回のワークショップに参加したメンバーと報告テーマは、以下のとおりです(報告順、敬称略。なお、ドイツ側からの参加者のテーマはプログラムをご覧ください)。

  • 松本涼(京都大学):Peacemaking and Kingship in 13th-Century Iceland
  • 谷澤毅(長崎県立大学:本研究会会員):Lübeck and the Trade Route between the Baltic and the Northern Sea during the Golden Age of the German Hansa
  • 山本大丙(早稲田大学:本研究会会員):Dutch Mennonite Merchants in the Baltic Trade
  • 菊池雄太(早稲田大学、グライフスヴァルト大学留学中:本研究会会員):Hamburg’s role in world trade from the 17th to the 18th century
  • 玉木俊明(京都産業大学:本研究会会員):The Rise of the World Economy and its Connections with Northern Europe in the Eighteenth Century: With Special Reference to Hamburg and the Baltic
  • 塩谷昌史(東北大学):The structural Change of commodity trade in Nizhegorod Fair in the Middle of the 19th century
ワークショップの模様/撮影:中田恵理子(京都大学大学院)

報告者各自の持ち時間は45分、そのうちの25分から30分が報告に、残りの時間が質疑応答に当てられました。参加者の中には、外国での英語による研究報告がはじめてという人もいましたが、英語に苦労しながらも、皆積極的に質疑応答に参加し、議論を深めることに貢献できました。事前に準備したペーパーなどを通じても、わが国のハンザ史、北欧史研究の水準がどの程度のレヴェルにあるのか、十分理解してもらえたのではないかと思います。

各参加者の報告のテーマは、バルト海を中心に広く北欧の歴史にまつわるもので、それぞれ非常に興味深いものでしたが、特に注目された報告としては、日本側からは玉木氏の18世紀の世界経済とバルト海に関する研究、またドイツ側からは、ラインハルト・パウルセン氏のハンザ船舶に関する研究が挙げられるでしょう。

玉木氏の報告は、グライフスヴァルト大学から事前に配布されたプレスリリースでノルト氏も注目していたように、きわめて広い題材を盛り込んだもので、グローバルな視点からバルト海貿易を論じるものでした。そのためもあってか、質疑応答ではバルト海を離れてアジア経済史、アジア貿易圏に関する質問やコメントに多くの時間が費やされました。一方のパウルセン氏の報告は、ハンザの船舶に関する見識の広さと緻密さとがみごとに融合したもので、図像史料と文書史料の双方から船舶の所有関係の変遷を明らかにするという分析手法は非常に明快でしかも斬新であり、日本側からの参加者に強い感銘を与えました。

グライフスヴァルト市庁舎/撮影:中田恵理子(京都大学大学院)

今回のワークショップの総合的なコーディネーターとして、私たちのグライフスヴァルト滞在を支えてくれたのは、ノルト氏のもとでアジア経済史を研究するアレクサンダー・ドロスト博士でした。コーヒーブレイクやランチ、懇親会のほかにも、ホテルの手配、グライフスヴァルト市内や大学内の案内などを通じて、現地の歴史学専攻のスタッフは、十分すぎるくらいの心遣いを示してくれました。

これまでもハンザ史やその周辺領域のわが国の研究者が、単独で現地の研究者と協議を重ねたり、研究報告をする機会はありました。しかし、今回のワークショップがそうであったように、ハンザ・北欧史を研究する者がまとまって、しかもハンザ地域(バルト海)をテーマとするドイツでの会合に参加して報告し、議論するという機会は皆無だったのではないかと思われます。その意味で、今回のグライフスヴァルトにおけるワークショップへの参加は、わが国のハンザ史研究発展にとって少なからぬ意味をもったと考えることができるでしょう。

学会・研究会等のお知らせ

2008年5月1日-2日にグライフスヴァルトで開催された「バルト海の歴史についての日独ワークショップ」(Japanese-German Workshop on Baltic History)の参加記を掲載しました。