2025-03-16

ハンザ商館規約の刊本情報

2025年3月16日(日)

小野寺利行(明治大学ほか)

はじめに

交易を円滑に行なうための商人・都市の団体であるハンザにとって、在外交易拠点の商館は重要な存在である。商館はハンザ商人たちが現地の非ハンザ商人たち、つまりハンザ商人と異なる文化・慣習をもつ商人たちと取引を行なう場であり、ハンザ商人たちが異郷の地で共同生活を営む場でもあった。そのような場では、外に対しても内に対してもハンザ商人たちの行動に一定の枠をはめる秩序なり規制なりが必要不可欠となる。

そういった秩序や規制の一端を示す史料が商館の規約である。商館の規約は十九世紀に刊行がはじまったハンザ史関連の大部の史料集に収められているが(1)、いわゆる四大商館の規約をまとまったかたちで読むことのできるものとしては、R・シュプランデル(R. Sprandel)が1982年に出版した史料集がある。

  • Sprandel, R. (Hg.), Quellen zur Hanse-Geschichte (Ausgewählte Quellen zur deutschen Geschichte des Mittelalters, Bd. 36). Darmstadt, 1982, S. 322-386.

この史料集は、商館規約が差し当たりどのようなものなのかを確認するには有用ではある。しかし、網羅的なものではないので、商館規約を研究で利用するとなるとほかの刊本にあたる必要があるだろう。以下では、四大商館の規約のテキストが収録された刊本を紹介していく。

ノヴゴロド商館

ノヴゴロド商館の規約は十三世紀から十七世紀にかけて七度制定されている。しかし、シュプランデルの史料集に収録されているのは十四世紀半ばごろの第四規約のみである。七つすべて規約が収められているのは、1911年/1914年のW・シュリューター(W. Schlüter)の刊本である。

  • Schlüter, W. (Hg.), Die nowgoroder Schra in sieben Fassungen vom XIII. bis XVII. Jahrhundert. Dorpat, 1911, 1914.

シュリューターによって校訂されたテキストは広く利用されていて、2005年には第一規約から第五規約までのテキストがS・ジェンクス(S. Jenks)によってデジタル化されている。

  • Jenks, S., Die mittelalterlichen Schraen des hansischen Kontors in Nowgorod [CD-ROM], in: Hammel-Kiesow, R.; Hundt, M. (Hgg.), Gedächtnis der Hansestadt Lübeck: Festschrift für Antjekathrin Graßmann zum 65. Geburtstag. Lübeck, 2005.

第二次世界大戦末期に、リューベックに保管されていた写本はほかの史料とともに戦災を逃れるために疎開した先でソ連軍に押収され、戦後はソ連で保管されていて、長らく利用できなかった。そのため、シュリューター以降、新しい刊本は長らく登場しなかったが、2020年になってЕ・Р・スクヴァイルス(Е. Р. Сквайрс)とА・В・マリコフ(А. В. Мальков)による第一・第四・第七規約の新しい校訂テキストが登場した。

  • Сквайрс Е. Р.; Мальков, А. В., Новгородская Скра: Издание, перевод, исследования. М., 2020.

ブルッヘ商館

シュプランデルの史料集に収められているブルッヘ商館の規約は1347年のものだが、ほかにもいくつか存在する。最近刊行されたものとしては、十五世紀後半の写本(2)に含まれている規約があり、それはブルッヘ商館に関するハンザ総会決議の集成といった体裁のものである。

  • Henn, V., Eine unbeachtete Brügger Kontorordnung aus dem 15. Jahrhundert, in: Heckmann, M.-L.; Röhrkasten, J. (Hgg.), Von Nowgorod bis London: Studien zu Handel, Wirtschaft und Gesellschaft im mittelalterlichen Europa. Festschrift für Stuart Jenks zum 60. Geburtstag (Nova Mediaevalia: Quellen und Studien zum europäischen Mittelalter, Bd. 4). Göttingen, 2008, S. 31-50.

ノヴゴロド商館の規約の写本と同様、この写本も第二次大戦末期にソ連軍に押収された。その後は東ドイツで保管されていたが、ノヴゴロド商館のものと異なり、1987年にリューベックに返還されている。

なお、この写本には、商館規約以外にも海法が含まれていて、こちらも刊行されている。

  • Jahnke, C.; Graßmann, A. (Hgg.), Seerecht im Hanseraum des 15. Jahrhunderts: Edition und Kommentar zum Flandrischen Copiar Nr. 9 (Veröffentlichungen zur Geschichte der Hansestadt Lübeck, Reihe B, Bd. 36). Lübeck, 2003.

ロンドン商館

ロンドン商館の規約については、J・M・ラッペンベルク(J. M. Lappenberg)が1851年に出版した史料集に収められているテキストがあり、シュプランデルの史料集でも基本的にこれに依拠している。

  • Lappenberg, J. M. (Hg.), Urkundliche Geschichte des hansischen Stahlhofes zu London, Abt. 2. Hamburg, 1851, Nr. 106, S. 102-123.

ただし、シュプランデルは、ラッペンベルクが底本としたハンブルク写本には誤りがあるため、ダンツィヒ写本を参照して修正を施したと述べている(3)。そのため両者のテキストには違いが認められる。

ベルゲン商館

シュプランデルの史料集に掲載されているのは、1365年と1369年のものだが、それ以外にも1934年にノルウェーで刊行された史料集に収録されている規約がある。

  • Johnsen, O. A.; Kolsrud, O.; Taranger, A. (red.), Norges Gamle Love, 2. række: 1388-1604, bd. 2: 1448-1482. Oslo, 1934, no. 416, s. 674-690.

この規約の成立年代ははっきりしておらず、十五世紀末から十六世紀前半とみられている(4)。この規約の写本はリューベックに保管されているが(5)、M・ブルクハルト(M. Burkhardt)によれば、この規約はドイツ人研究者にはあまり知られていなかったようである(6)

なお、ブルクハルトは自身の学位論文にこの規約のテキストを掲載しているようであるが、著者は未見のため確認できていない。

  • Burkhardt, M., Das Hansekontor in Bergen im Spätmittelalter (unveröffentlichte Magisterarbeit, Christian-Albrechts-Universität zu Kiel). Kiel, 2002.

  1. このような史料集としては、例えば以下のようなものがある。
    • Hanserecesse, Abt. 1, Bd. 1-8; Abt. 2, Bd. 1-7; Abt. 3, Bd. 9; Abt. 4, Bd. 1-2. Leipzig et al., 1870-1970.
    • Hansisches Urkundenbuch, Bd. 1-11. Halle et al., 1876-1916.
    • Urkundenbuch der Stadt Lübeck, Bd. 1-11, Lübeck, 1843-1905.
  2. Archiv der Hansestadt Lübeck, ASA External Batavica, Flandrischer Copiar Nr. 9.
  3. Sprandel, R. (Hg.), Quellen zur Hanse-Geschichte, S. 350-351.
  4. Burkhardt, M., Das Hansekontor in Bergen im Spätmittelalter: Organisation und Struktur, in: Hansische Geschichtsblätter, 124. 2006, S. 31.
  5. Archiv der Hansestadt Lübeck, ASA Externa Danica, 636.
  6. Burkhard, M., Die Ordnungen der vier Hansekontore Bergen, Brügge, London und Novgorod, in: Grassmann, A. (Hg), Das Hansische Kontor zu Bergen und die Lübecker Bergenfahrer: International Workshop Lübeck 2003 (Veröffentlichungen zur Geschichte der Hansestadt Lübeck, Reihe B, Bd. 41). Lübeck, 2005, S. 59.